ほんとのこと

正解はありません、不正解はあります。

エモいのその気味悪さ

 今更こんなことを言ってしまうのは、あまりにも類型的な、時代にフィットしていない頭の固い大人という感じがしてしまうが、やはりどうしても許せないものだ。エモいという言葉は。日本人はスマホ、ファミマ、デリヘル、ブラピ等々、長い言葉を短い言葉に縮めて言いやすくするという民族だとは思う。しかし、このエモいという言葉はこういった縮め言葉とは対照的に恐ろしく耳触りが悪いのだ。エモい。エモい。エモい。やはり気持ち悪い。その原因を少し考えてみて一つ仮説を立ててみた。それは母音の「e」とそれに続く子音の「m」それに形容詞の終始系「い」がつくこの音の繋がりが気味の悪さの正体だ、という仮説だ。

 そこでひとまずこの「エモい」という音と同じ条件の言葉をいくつか探してみた。眠い、狭い、煙い、これらが先ほどの条件に該当する言葉になるが、当然のことながら耳触りの悪さはない。一応ない言葉でも調べておこう。てまい、えむい、れむい、けみい。それほど悪い感触ではない。

 ではもう一段階条件を絞ってみようと思う。「emo」に「い」がついた言葉に限定してみる。つまりもう、エモい、けもい、せもい、てもい、ねもい、へもい、めもい、れもい、これら八語しかないわけである。これらすべての語感を口に出して味わってみる。なるほど、答えが出た。

 「れもい」なんかはむしろ透き通った心地いい感触だったし、「けもい」はもう誰かすでに使ってるんじゃないかと思うほどだ。他の語もそれほどに耳触りの悪い音ではなかった。ある一語を除いては―。

 ではその肝心な耳触りの悪いある一語とは何なのか。それは「へもい」だ。へもい。へもい。へもい。気持ち悪い。では一体なにがこの耳触りの悪さを生み出しているのか。

 「へもい」と「エモい」には共通点がある。発音の際の口の状態に注目してほしい。そう、この二語はどちらも語頭の音を唇と舌、どちらも動作させずに出しているのだ。他の語頭は舌が上あごについていたり、破裂させていたり、唇の動作を使ったりして音を出している。

 つまり動作のない音と「mo」の唇を閉じた状態から、漏らすように、じとっと開いて出す音が繋がったとき、奇妙な耳触りが生まれ不快感を覚えるさせるのだ。

 と、まあ大層な、あまり客観的とは言い難い論理に基づいて、個人的な理論を完成させたわけですが、結局のところただただエモいが嫌いなだけです。生理的に受け付けない言葉を、解析し理由付けして正当化を試みただけなのです。要領を得ない流行り言葉が嫌いなだけです。